突然の夕立に咲く一輪の傘【短編】
部長 三上透(34) ×部下 佐川あおい(26)
「あ…傘忘れた…」
突然、しとしとと降り始める雨
今朝はこうなるとは微塵も感じさせないような日差しが照りつけていたのに
仕事が終わって外へ一歩踏み出そうとした瞬間これだ
金曜だっていうのに今日はとことんついてない
「しょうがない。濡れて帰るか…」
下を向き深く肩を落とし、歩きだそうとしたとき背中から声がした
「佐川くん、それじゃ風邪ひくでしょ?駅までなら入れてくけど、傘。」
振り向くとそこには見覚えのある顔
「え、部長?」
きょとんとした私の顔はそっちのけで、ぶっきらぼうなひきつり笑いをして立っていたのは所属している部署の三上部長。
「え、いいですよ!走っていけばそんな距離ないですし!」
偶然にしてはどうも出来すぎたタイミングだとも思ったが私はそのまま外に出ようとした
(てか、部長の笑った顔見たことないな…レアだ…)
「風邪ひいたってのを理由に休まれたら困るからね。ほら、いくぞ。」
「あ、ま、待ってください!」
小さな会釈をして部長の隣に並ぶ
半ば強制的にお邪魔してしまった傘は少し狭い
横をちらりと覗くと体格のいい部長の右の肩が少ししっとりしていた
「…あの、部長?」
「ん?どうした?」
普段通りに返ってくる返事に対して遠慮気味の指摘をする
「なんかすいません…肩、濡れちゃって…」
「全然いいよ!むしろ濡れてない?肩。」
普段は気を遣う相手なはずのに今日は逆転しててなんか変な感じ
「あっ大丈夫です!お構いなく!」
と、早口に返したのはいいものの…
(何話そっかな…気まず…)
「佐川くんはさ、雨って好き?」
「へ?」
突然の部長の言葉に拍子抜けをした返事しかできなかった
「…あっああ、ごめんごめん。いや、雨ってちょっと憂鬱じゃん?俺は嫌いかな〜。くせ毛戻るし」
(部長くせっ毛なんだ、意外…かわいい…)
「雨…突然降られるとちょっと困りますけど、そんなに嫌いじゃないですよ?私は。雨の日セールとかあるんで、たまに雨でも出かけます!」
「そうなんだ!」
ふーんと頷くような返事に続けるように口が開いた
「でも俺、今日はちょっと好きかな。雨。」
ちらりと向けられた視線は、普段では見たことのないような柔らかい微笑みだった
「そろそろ気づいてもいいんじゃない?あおいちゃん。」
「えっ…?」
突然の事で頭の整理が出来ずにいる間に部長は、いたずらな微笑みを浮かべながら私に傘の柄をん!と押し付けて走って行ってしまった
「じゃ!俺ちょっと用事できたからここで!傘、持っていっていいから!!」
「え?あ、はい…!!お疲れ様でした!」
嵐のように過ぎ去った彼は、私を一滴も濡らすことなく駅まで送り届けてくれた。
それと同時に私の心には、嵐が上陸したように心拍数が上がっていくのがわかった
(どうしてくれんの?この気持ち…)
突然の夕立に咲く一輪の傘
花言葉は「また君に会う口実」
(月曜日会う時、なんて声かけようかな…)
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[あとがきの巻]
久々の文章書きです。
なかなか時間かかりました
でもちょっときゅん来てるかなって思い込んでます。
最後まで見てくださってありがとうございました〜^^^^
ちこく